2008年04月15日

踊るんだ。踊り続けるんだ。

「『踊るんだよ』羊男は言った。『音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言ってることはわかるかい? 踊るんだ。踊り続けるんだ。なぜ踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。』 (「ダンス・ダンス・ダンス」上巻 村上春樹著)

道を歩いているとたまに「羊男(※)」に出会う。
“彼”は突然に現れてまるで配電盤をいじる電気工事士のように、僕のこれからの進む道を繋げては何もなかったかのように静かに立ち去って行く…。

その時はとても自然で当然の出来事のように感じるから、つい僕は“彼”のことを気にすることもなく、道を行き交う人達の中に記憶を埋没させていく。そして僕はいつも後から考える、「あれはいったい何だったのだろう?」と。

今の僕の生活は、望む望まぬをさておき、なんとか成り立っている。でも、今を成り立たせている過去を省みてみると、自分でも理解不能な不思議な出来事がそこにあったことに気付く。目に見えない圧倒的な力というか、抗えない“波”のようなものにヒョイっと首根っこを引っ張られてそうせざるを得ない、もうそこ以外の道には進めないという状況や心境。
もっと他に道はあったろうに、でも不思議とその道を進んだことはとても自然で後悔がない。
たとえ今がどれだけ苦しい状況だったとしても、多分その道を自分は進むしかなかったんだと思える瞬間。

「神」という言葉で説明するのが一番通りが良いと思う、でも、「神」はみんなが望んだ先に存在しているのであって、「神」が気まぐれで何かをしているわけではないと思う。それでも“見えざる手”が気まぐれに現れて、ぬか床をこねるかのように僕達の行き先を“こなして”しまうような感覚に陥ってしまう。

どんな哲学や自然科学や心理学も、後出しジャンケンのように結果を検証するしかないから、誰かに答えを求めても「さぁ、どうなんだろう?」としか応えてくれない。いつだってグルメ番組のリポーターのように、「うまい」のバリエーションがあるだけなのだ。

そんな時、僕は「羊男」を登場させる。このまま頑張っても無駄に終ってしまうかもしれない、でも「羊男」が繋いでくれた舞台ならば僕は踊り続けるしかない、みんなが感心するくらいに。そうすれば、もしかしたら自分の望むままの世界でなかったとしてもなんとかなるのかもしれない。

ギィィィィィとねじまき鳥(※2)がどこかで鳴いている。その鳥は時より現れては僕の人生のゼンマイのようなものを巻いて、ブリキのおもちゃのように動かそうとする。
ユングの言うシンクロニティ(共時性)の世界のように、群像(※3)は偶然に見えて必然的に起こる。それが全宇宙の生命分の一の確率で誰かと出会い、全次元の時間分の一の確率で同じ空間に存在している。今目の前で起こっていることは偶然かもしれない、でも、その偶然は渡り鳥の羽ばたきがどこかの国で台風になるくらいの必然性があるのです。

今ここに自分が存在し誰かと出会い生きていくという“奇蹟”、そこで上手い下手は関係がない、とにかく踊り続けることを決意したのならば「羊男」はしかるべき次の舞台へ繋いでくれるのだと、僕は思います。


羊男
村上春樹の小説の登場人物。 名古屋テレビ(メ~テレ)のキャラクター「ウルフィー」まではかわいくない、羊の皮をかぶったあやしい男。 羊男は小説の主人公の前に時より現れては新たな展開と大きな謎を残していく。 僕個人の印象は日本神話で出てくる「猿田彦の神」や、不思議の国のアリスに出てくる「時計を持ったウサギ」のように、異次元の世界を行き来する“道案内”のような役割をしているように思える。
いずれも脇役のような存在にも関わらず、物語のイニシアチブを握っている重要な“鍵”になっています。羊男のモデルは、多分「鏡の国のアリス」の方に出てくる船の上で編み物をしている羊人間ではないかと一人考えている。

※2 ねじまき鳥 ※3 群像
これも村上春樹の小説に出てくる。 群像(ぐんぞう)とは、無関係に起きた別々の出来事がある時に突然繋がり一つの物語に集約されていく世界です。



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